@IDX:61500
@OFF:0xe8
@SPK:
@JPN:　………………。
@ENG:

@IDX:61501
@OFF:0x11a
@SPK:
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:61502
@OFF:0x148
@SPK:
@JPN:　……。
@ENG:

@IDX:61503
@OFF:0x1cc
@SPK:
@JPN:　緩やかなカーブを描いて、意識が覚醒レベルにまで　到達する。
@ENG:

@IDX:61504
@OFF:0x216
@SPK:
@JPN:　夢と現の狭間から、朝日が心をすくい上げる。
@ENG:

@IDX:61505
@OFF:0x250
@SPK:
@JPN:　爽やかな朝。
@ENG:

@IDX:61506
@OFF:0x26c
@SPK:
@JPN:　爽やかな目覚め。
@ENG:

@IDX:61507
@OFF:0x29e
@SPK:
@JPN:　夏の終わりの涼やかな風が、僕の頬を撫でる。
@ENG:

@IDX:61508
@OFF:0x2d8
@SPK:
@JPN:　約束の２週間まで今日を入れてあと３日。
@ENG:

@IDX:61509
@OFF:0x30e
@SPK:
@JPN:　どうやら最後までやり遂げられそうだ。
@ENG:

@IDX:61511
@OFF:0x4a2
@SPK:［真魚］
@JPN:　……とまあ、今日洗ってもらうのはそんな感じ。
@ENG:

@IDX:61514
@OFF:0x506
@SPK:[\protag]
@JPN:　男性１体、傷はなしだな……了解。
@ENG:

@IDX:61516
@OFF:0x5e5
@SPK:［真魚］
@JPN:　ねえねえ、昨日の話の続きなんだけどさ……。
@ENG:

@IDX:61519
@OFF:0x647
@SPK:[\protag]
@JPN:　それじゃ、行ってくる。またあとでな！
@ENG:

@IDX:61521
@OFF:0x72a
@SPK:［真魚］
@JPN:　あ～ん、待ってよ～。
@ENG:

@IDX:61522
@OFF:0x7cd
@SPK:
@JPN:　僕を呼び止めようとする真魚の声を完全無視して、　洗い場に向かう。
@ENG:

@IDX:61523
@OFF:0x81d
@SPK:
@JPN:　昨日の話……つまり、真魚が怒られる原因になった　エグい話。
@ENG:

@IDX:61524
@OFF:0x867
@SPK:
@JPN:　そんなもの聞きたくない。
@ENG:

@IDX:61525
@OFF:0x8a1
@SPK:
@JPN:　……聞きたくはないが、興味はある。
@ENG:

@IDX:61526
@OFF:0x8d3
@SPK:
@JPN:　一体どんなエグい話なのか。
@ENG:

@IDX:61527
@OFF:0x8fd
@SPK:
@JPN:　どれくらい僕を引かせるのか。
@ENG:

@IDX:61528
@OFF:0x929
@SPK:
@JPN:　聞きたくないのに聞いてみたい。
@ENG:

@IDX:61529
@OFF:0x957
@SPK:
@JPN:　怖いのに見てみたい。
@ENG:

@IDX:61530
@OFF:0x97b
@SPK:
@JPN:　臭いのに嗅いでみたい。
@ENG:

@IDX:61531
@OFF:0x9a1
@SPK:
@JPN:　人間の心って、不思議だよな。
@ENG:

@IDX:61532
@OFF:0xa57
@SPK:
@JPN:　今日もまた男性の遺体を洗っている。
@ENG:

@IDX:61533
@OFF:0xa89
@SPK:
@JPN:　ガッチリとした体つきの壮年の男性。
@ENG:

@IDX:61534
@OFF:0xabb
@SPK:
@JPN:　骨太で、あまり脂肪のついていない身体。
@ENG:

@IDX:61535
@OFF:0xaf1
@SPK:
@JPN:　生前はさぞ力強かったであろう胸板。
@ENG:

@IDX:61536
@OFF:0xb23
@SPK:
@JPN:　無駄なたるみの見られない下腹。
@ENG:

@IDX:61537
@OFF:0xb61
@SPK:
@JPN:　かなり鍛えていたことが分かる身体。
@ENG:

@IDX:61538
@OFF:0xb93
@SPK:
@JPN:　みっちりと締まった筋肉。
@ENG:

@IDX:61539
@OFF:0xbbb
@SPK:
@JPN:　見た目以上に重いことは、引き上げた時に体感して　知っている。
@ENG:

@IDX:61540
@OFF:0xc13
@SPK:
@JPN:　こんな年まで、こんな肉体を保ち続けていたなんて　すごい。
@ENG:

@IDX:61541
@OFF:0xc5b
@SPK:
@JPN:　自分自身の貧弱な肉体と比べてしまう。
@ENG:

@IDX:61542
@OFF:0xc8f
@SPK:
@JPN:　確かに、この仕事を始めてから、多少筋肉がついた　ような気がする。
@ENG:

@IDX:61543
@OFF:0xcdf
@SPK:
@JPN:　だが、この目の前で横たわる男性と比べたら、月と　スッポン。
@ENG:

@IDX:61544
@OFF:0xd29
@SPK:
@JPN:　まるで、野生の狼と室内飼いのマメ芝くらいの差が　あるように感じる。
@ENG:

@IDX:61545
@OFF:0xd9b
@SPK:
@JPN:　身体を洗い終え、顔を洗い始める。
@ENG:

@IDX:61546
@OFF:0xdcb
@SPK:
@JPN:　深く年輪の刻まれた顔。
@ENG:

@IDX:61547
@OFF:0xdf1
@SPK:
@JPN:　タワシでユルユルと擦りながら観察する。
@ENG:

@IDX:61548
@OFF:0xe33
@SPK:
@JPN:　年老いたりとは言え端正な顔立ち。
@ENG:

@IDX:61549
@OFF:0xe63
@SPK:
@JPN:　昔年の美青年ぶりが窺える。
@ENG:

@IDX:61550
@OFF:0xe91
@SPK:
@JPN:　……？
@ENG:

@IDX:61551
@OFF:0xea7
@SPK:
@JPN:　頬に、やや色味の違った筋を見つける。
@ENG:

@IDX:61552
@OFF:0xedb
@SPK:
@JPN:　なんだろうと思い、指でなぞってみる。
@ENG:

@IDX:61553
@OFF:0xf0f
@SPK:
@JPN:　手袋越しでよくは分からないが、周りと比べてやや　盛り上がっているように感じる。
@ENG:

@IDX:61554
@OFF:0xf6d
@SPK:
@JPN:　これは……おそらく古い傷痕だ。
@ENG:

@IDX:61555
@OFF:0xfb3
@SPK:
@JPN:　頬に走る一筋の傷痕。
@ENG:

@IDX:61556
@OFF:0xfd7
@SPK:
@JPN:　生前この人は何をやっていたのだろう。
@ENG:

@IDX:61557
@OFF:0x100b
@SPK:
@JPN:　その疑問がいけなかった。
@ENG:

@IDX:61558
@OFF:0x1033
@SPK:
@JPN:　すぐ忘れようとしたが、すでに手遅れだった。
@ENG:

@IDX:61559
@OFF:0x106d
@SPK:
@JPN:　決して感じないようにしてきた死体への親愛の情が　コンコンと湧き出してきてしまった。
@ENG:

@IDX:61560
@OFF:0x113d
@SPK:
@JPN:　だが、思っていたほどつらい感じはしない。
@ENG:

@IDX:61561
@OFF:0x1175
@SPK:
@JPN:　それどころか普段よりも丁寧に、より熱心に洗おう　という気がしてくる。
@ENG:

@IDX:61562
@OFF:0x11c9
@SPK:
@JPN:　やる気と言い換えてもいいかもしれない。
@ENG:

@IDX:61563
@OFF:0x120f
@SPK:
@JPN:　これは、僕がこの仕事に……死体洗いに慣れたから　……ということなのだろうか？
@ENG:

@IDX:61564
@OFF:0x126b
@SPK:
@JPN:　それとも、生前のこの人を知らないから……死体と　してのこの人しか知らないからだろうか。
@ENG:

@IDX:61565
@OFF:0x12e1
@SPK:
@JPN:　もし生前からの知り合いが、こうして僕の前にその　身体を晒していたとすると、同じように親愛の情を　抱くことができるだろうか。
@ENG:

@IDX:61566
@OFF:0x136b
@SPK:
@JPN:　……できない気がする。
@ENG:

@IDX:61567
@OFF:0x13a1
@SPK:
@JPN:　おそらく取り乱してしまって、それどころではない　だろう。
@ENG:

@IDX:61568
@OFF:0x13e9
@SPK:
@JPN:　なぜなら、それらの人々は生きて動いていることが　当たり前で、死して伏せっているような状態は異常　でしかないからだ。
@ENG:

@IDX:61569
@OFF:0x1479
@SPK:
@JPN:　色々と考えてみて、この人物に対する親愛の情が、　僕を混乱させない原因が分かった気がする。
@ENG:

@IDX:61570
@OFF:0x14e1
@SPK:
@JPN:　それは、この人が死体として伏せっていることが、　僕にとっては当たり前の状態だから。
@ENG:

@IDX:61571
@OFF:0x1543
@SPK:
@JPN:　僕が抱いている親愛の情は、死体としてのこの人に　対してであって、生前の……生きている頃のこの人　に対してではないからだ。
@ENG:

@IDX:61572
@OFF:0x15db
@SPK:
@JPN:　やはり死体というものは、生きている人間とある種　まったく別の存在なのだろう。
@ENG:

@IDX:61573
@OFF:0x1637
@SPK:
@JPN:　同じ肉体を共有していても、死んだ後のその人と、　生きている時のその人とでは、まったくの別人。
@ENG:

@IDX:61574
@OFF:0x16a3
@SPK:
@JPN:　その断絶に人は恐怖するのかもしれない。
@ENG:

@IDX:61575
@OFF:0x16e9
@SPK:
@JPN:　死した瞬間に、目の前のその人が、或いは自分が、　まったく別のものになってしまう。
@ENG:

@IDX:61576
@OFF:0x1749
@SPK:
@JPN:　いや、正確に言うならば、自分や目の前のその人が　別のもの……別の存在になるのではない。
@ENG:

@IDX:61577
@OFF:0x17bd
@SPK:
@JPN:　自分や目の前のその人を、その人自身と認識させて　いた物質……つまり肉体だけを残して、その人自身　を形成していた本質的な部分……魂と呼ばれるよう　なものが失われてしまう。
@ENG:

@IDX:61578
@OFF:0x1875
@SPK:
@JPN:　目の前に残された肉体は、その人にしか見えないけ　れども、その人自身では決してあり得ない。
@ENG:

@IDX:61579
@OFF:0x18dd
@SPK:
@JPN:　死とはそういうことなのかもしれない。
@ENG:

@IDX:61580
@OFF:0x1921
@SPK:
@JPN:　つまり僕が感じた親愛の情は、この肉体に対するも　のであって、この人物の生前の姿……魂を備えてい　た頃の肉体に対する親愛の情とは、まったく関係が　ないということになる。
@ENG:

@IDX:61581
@OFF:0x19e7
@SPK:
@JPN:　人が死体というものを恐れるのは、それが未知の存　在だからで、こうして毎日顔を合わせて自分なりの　死体観のようなものが確立されると、死体というも　のが恐れるべき存在ではない、ということが分かっ　てくる。
@ENG:

@IDX:61582
@OFF:0x1acf
@SPK:
@JPN:　…………こうして死体や死について考えていると、　いつもつまづく疑問がある。
@ENG:

@IDX:61583
@OFF:0x1b29
@SPK:
@JPN:　普遍的で変わらない疑問。
@ENG:

@IDX:61584
@OFF:0x1b51
@SPK:
@JPN:　どんな人でも必ず一度は抱く疑問。
@ENG:

@IDX:61585
@OFF:0x1b81
@SPK:
@JPN:　決して成果の得られない疑問。
@ENG:

@IDX:61586
@OFF:0x1bbf
@SPK:
@JPN:　死とは一体何なのかということ。
@ENG:

@IDX:61587
@OFF:0x1bed
@SPK:
@JPN:　生命とは、魂とは、そして……この考えている僕と　いう存在は一体何なのだろうかということ。
@ENG:

@IDX:61588
@OFF:0x1cc5
@SPK:
@JPN:　人が死ぬと、肉体は死体になる。
@ENG:

@IDX:61589
@OFF:0x1cf3
@SPK:
@JPN:　構成物質そのものは変わらない。
@ENG:

@IDX:61590
@OFF:0x1d21
@SPK:
@JPN:　一体なにをもってして、人は死体と肉体を区別する　のだろうか。
@ENG:

@IDX:61591
@OFF:0x1d6d
@SPK:
@JPN:　魂がない、というのは答えにならない。
@ENG:

@IDX:61592
@OFF:0x1da1
@SPK:
@JPN:　魂の存在自体、立証されていないのだから。
@ENG:

@IDX:61593
@OFF:0x1dd9
@SPK:
@JPN:　両者にある明らかな違いは新陳代謝の有無。
@ENG:

@IDX:61594
@OFF:0x1e11
@SPK:
@JPN:　それを司っていた脳の活動の有無。
@ENG:

@IDX:61595
@OFF:0x1e4f
@SPK:
@JPN:　脳の活動……身体の諸機能、様々な働きを司る脳の　活動。それはつまるところ、電気信号と化学物質の　働きと言える。
@ENG:

@IDX:61596
@OFF:0x1ecd
@SPK:
@JPN:　ニューロンネットワークを電気信号が走り、神経伝　達物質がシナプスの連結や切断を行う。
@ENG:

@IDX:61597
@OFF:0x1f31
@SPK:
@JPN:　記憶というものも、極論してしまえば電気信号の記　録……０と１に過ぎない。
@ENG:

@IDX:61598
@OFF:0x1f99
@SPK:
@JPN:　その活動が停止する。
@ENG:

@IDX:61599
@OFF:0x1fbd
@SPK:
@JPN:　思考は止まり、身体の諸機能は停止し、新しい記憶　の蓄積がされなくなる。
@ENG:

@IDX:61600
@OFF:0x2013
@SPK:
@JPN:　そうなった体が、死体なのだろうか。
@ENG:

@IDX:61601
@OFF:0x2055
@SPK:
@JPN:　では、死体に脳の活動を再現したコンピュータを繋　いだとする。
@ENG:

@IDX:61602
@OFF:0x20a1
@SPK:
@JPN:　プログラムされた思考パターンを繰り返し再現し、　新しい記憶を蓄積していく。
@ENG:

@IDX:61603
@OFF:0x20fb
@SPK:
@JPN:　そんな死体は生きていると言えるのだろうか？
@ENG:

@IDX:61604
@OFF:0x2143
@SPK:
@JPN:　見かけ上は生きているように見える。
@ENG:

@IDX:61605
@OFF:0x2175
@SPK:
@JPN:　だから、その死体がコンピュータによって動かされ　ていることを知らない人々にとっては、その死体は　死体ではなくなる。
@ENG:

@IDX:61606
@OFF:0x21f7
@SPK:
@JPN:　しかし、その死体がコンピュータによって動かされ　ていることを知っている人にとっては、依然として　それは死体でしかない。
@ENG:

@IDX:61607
@OFF:0x228d
@SPK:
@JPN:　つまり、相手が生きているのか、それとも死んでい　るのかという判断は、その人自身の認識に大きく左　右される……というのが正解に一番近いのではない　だろうか。
@ENG:

@IDX:61608
@OFF:0x2347
@SPK:
@JPN:　例えば、友人が電車の中で寝ているのを見かけたと　する。
@ENG:

@IDX:61609
@OFF:0x238d
@SPK:
@JPN:　別にその時はなんとも思わないだろう。
@ENG:

@IDX:61610
@OFF:0x23c1
@SPK:
@JPN:　ただ、その友人が寝ていた。
@ENG:

@IDX:61611
@OFF:0x23eb
@SPK:
@JPN:　それだけのことでしかないのだから。
@ENG:

@IDX:61612
@OFF:0x242b
@SPK:
@JPN:　だがその友人が電車の中で死んでいた、ということ　を誰かから聞いたとする。
@ENG:

@IDX:61613
@OFF:0x2483
@SPK:
@JPN:　するとその瞬間、時間をさかのぼってその友人の生　は死に書き換えられる。
@ENG:

@IDX:61614
@OFF:0x24d9
@SPK:
@JPN:　電車の中で見かけた友人が、電車の中で死んでいた　友人になる。
@ENG:

@IDX:61615
@OFF:0x2535
@SPK:
@JPN:　つまり、その人自身の認識によって、生きた身体が　死んだ身体になったり、死んだ身体が生きた身体に　なったりする。
@ENG:

@IDX:61616
@OFF:0x25b3
@SPK:
@JPN:　死というものは、認識の仕方によって簡単に入れ替　わるもの……なのだろうか。
@ENG:

@IDX:61617
@OFF:0x261d
@SPK:
@JPN:　確かに、医学的な死というものは不可逆なものであ　るかもしれない。
@ENG:

@IDX:61618
@OFF:0x266d
@SPK:
@JPN:　しかし、人の認識における死……情報の上での死と　いうものは覆すことが可能なこと……可逆なもので　あると言えよう。
@ENG:

@IDX:61619
@OFF:0x26ff
@SPK:
@JPN:　人が死んだとしても、それが誰かに認識されなけれ　ば、その人が死んだという事実は成立しない。
@ENG:

@IDX:61620
@OFF:0x2779
@SPK:
@JPN:　……ふと恐ろしいことに気づく。
@ENG:

@IDX:61621
@OFF:0x27a7
@SPK:
@JPN:　これは逆のことでも言えるのではないか。
@ENG:

@IDX:61622
@OFF:0x27dd
@SPK:
@JPN:　逆のこと。
@ENG:

@IDX:61623
@OFF:0x27f7
@SPK:
@JPN:　つまり、生きているということ。
@ENG:

@IDX:61624
@OFF:0x2835
@SPK:
@JPN:　人が生きていたとしても、それが他人によって認識　されていなければ、それは生きているということに　はならない。
@ENG:

@IDX:61625
@OFF:0x28b1
@SPK:
@JPN:　生きていたとしても、死んだと認識されてしまえば　死んだことになってしまう。
@ENG:

@IDX:61626
@OFF:0x291b
@SPK:
@JPN:　僕がもし、この場で死んだとして、その事実に誰も　気づかなければ、それは死ではない。
@ENG:

@IDX:61627
@OFF:0x297d
@SPK:
@JPN:　僕のことを知る人々は、僕が生きていると認識し続　け、その人たちの記憶の中で僕は生き続ける。
@ENG:

@IDX:61628
@OFF:0x29e7
@SPK:
@JPN:　それは、永遠の命とも言えるのではないだろうか。　
@ENG:

@IDX:61629
@OFF:0x2a37
@SPK:
@JPN:　死の事実さえ知られなければ、人は永遠に生きるこ　とができる。
@ENG:

@IDX:61630
@OFF:0x2a83
@SPK:
@JPN:　知られてしまっても、それを打ち消すほどの存在感　があれば、永遠になれるのかもしれない。
@ENG:

@IDX:61631
@OFF:0x2ae9
@SPK:
@JPN:　あの、エルビスのように。
@ENG:

@IDX:61632
@OFF:0x2b85
@SPK:
@JPN:　ただし、忘れ去られることのないくらい記憶に深く　焼きつかなくてはダメだ。
@ENG:

@IDX:61633
@OFF:0x2bdd
@SPK:
@JPN:　ことあるごとに、人々の記憶の中から不死鳥のよう　に蘇り、新しい情報と一体化して、海馬の中に再び　自らの存在を刻みつける。
@ENG:

@IDX:61634
@OFF:0x2c75
@SPK:
@JPN:　人は情報の生き物だ。
@ENG:

@IDX:61635
@OFF:0x2c99
@SPK:
@JPN:　情報によって認識は左右され、認識によって行動が　左右される。
@ENG:

@IDX:61636
@OFF:0x2ce5
@SPK:
@JPN:　言い換えれば、人は情報に操られている。
@ENG:

@IDX:61637
@OFF:0x2d1b
@SPK:
@JPN:　情報を操るものが人を操ることができる。
@ENG:

@IDX:61638
@OFF:0x2d5f
@SPK:
@JPN:　情報戦略の重要性。
@ENG:

@IDX:61639
@OFF:0x2d81
@SPK:
@JPN:　それに、こんな場違いな場所で気づく。
@ENG:

@IDX:61640
@OFF:0x2db5
@SPK:
@JPN:　気づいたからと言って、どうこうするでもない。
@ENG:

@IDX:61641
@OFF:0x2df1
@SPK:
@JPN:　僕には守秘義務が適用されている。
@ENG:

@IDX:61642
@OFF:0x2e21
@SPK:
@JPN:　守秘義務……情報規制。
@ENG:

@IDX:61643
@OFF:0x2e47
@SPK:
@JPN:　つまり、行動規制。
@ENG:

@IDX:61644
@OFF:0x2e7b
@SPK:
@JPN:　僕は自由に行動できない。
@ENG:

@IDX:61645
@OFF:0x2ea3
@SPK:
@JPN:　行動の自由を認められていない。
@ENG:

@IDX:61646
@OFF:0x2ed1
@SPK:
@JPN:　それは僕の一部が死んでいるということ。
@ENG:

@IDX:61647
@OFF:0x2f1b
@SPK:
@JPN:　死……。
@ENG:

@IDX:61648
@OFF:0x2f41
@SPK:
@JPN:　死とは一体なんなのであろうか。
@ENG:

@IDX:61649
@OFF:0x2f6f
@SPK:
@JPN:　生の終着点。生の帰着点。
@ENG:

@IDX:61650
@OFF:0x2f97
@SPK:
@JPN:　人は死ぬために生まれ、死ぬために生きる。
@ENG:

@IDX:61651
@OFF:0x2fcf
@SPK:
@JPN:　死は誰にでも平等に訪れる。
@ENG:

@IDX:61652
@OFF:0x2ff9
@SPK:
@JPN:　富めるものにも、貧しいものにも。
@ENG:

@IDX:61653
@OFF:0x3029
@SPK:
@JPN:　美しいものにも、醜いものにも。
@ENG:

@IDX:61654
@OFF:0x3067
@SPK:
@JPN:　では、人は生まれるために死ぬのか？
@ENG:

@IDX:61655
@OFF:0x3099
@SPK:
@JPN:　死ぬことによって、その肉体から魂が抜け出し、魂　が新しい肉体を得て、生まれ来る。
@ENG:

@IDX:61656
@OFF:0x30f9
@SPK:
@JPN:　宗教によっては、輪廻を認めているものもある。
@ENG:

@IDX:61657
@OFF:0x3135
@SPK:
@JPN:　ただ、僕的にはあまり信じられない。
@ENG:

@IDX:61658
@OFF:0x3179
@SPK:
@JPN:　人が死んだ時に残るもの。
@ENG:

@IDX:61659
@OFF:0x31a1
@SPK:
@JPN:　それは、活動停止状態になった、肉体だけ……。
@ENG:

@IDX:61660
@OFF:0x31dd
@SPK:
@JPN:　死体……。
@ENG:

@IDX:61661
@OFF:0x3207
@SPK:
@JPN:　以前の僕が死体を恐れたのは、死体が恐ろしいもの　という認識があったから。
@ENG:

@IDX:61662
@OFF:0x325f
@SPK:
@JPN:　今の僕がそれほど死体を恐れないのは、死体が恐ろ　しいものではないという認識があるから。
@ENG:

@IDX:61663
@OFF:0x32d5
@SPK:
@JPN:　では、その認識しているものは何なのだろう。
@ENG:

@IDX:61664
@OFF:0x330f
@SPK:
@JPN:　脳内の電気信号のパターンだろうか。
@ENG:

@IDX:61665
@OFF:0x3341
@SPK:
@JPN:　電気信号のパターンが『僕』なのだろうか。
@ENG:

@IDX:61666
@OFF:0x3379
@SPK:
@JPN:　そんな電気信号のパターンの集合体が『魂』なのだ　ろうか。
@ENG:

@IDX:61667
@OFF:0x33d1
@SPK:
@JPN:　分からない。
@ENG:

@IDX:61668
@OFF:0x33ed
@SPK:
@JPN:　そうなのかもしれないという思いと、そんな即物的　なものではないという思いが頭の中でせめぎ合って　いる。
@ENG:

@IDX:61669
@OFF:0x3463
@SPK:
@JPN:　これも電気信号のパターンなのだろうか。
@ENG:

@IDX:61670
@OFF:0x355e
@SPK:
@JPN:　連想ゲームのように、青くさい書生論を無限ループ　させているうちに、いつの間にか作業が全て終わっ　ていた。
@ENG:

@IDX:61671
@OFF:0x35d6
@SPK:
@JPN:　こうして、ほとんど意識しなくても身体は動く。
@ENG:

@IDX:61672
@OFF:0x3612
@SPK:
@JPN:　つくづく人間の不思議さを思い知らされる。
@ENG:

@IDX:61674
@OFF:0x37a8
@SPK:［鏑木］
@JPN:　何だ？　今日はわりとかかったな。どうかしたのか？
@ENG:

@IDX:61677
@OFF:0x3810
@SPK:[\protag]
@JPN:　いえ、ちょっと考え事しながら洗ってたもので。
@ENG:

@IDX:61679
@OFF:0x3881
@SPK:［鏑木］
@JPN:　考え事？　一体どんな考え事してたんだ？
@ENG:

@IDX:61682
@OFF:0x38df
@SPK:[\protag]
@JPN:　この人がどんな人だったのか……あと、生と死について。
@ENG:

@IDX:61684
@OFF:0x3958
@SPK:［鏑木］
@JPN:　ずいぶん隔たりのあるテーマだな。
@ENG:

@IDX:61687
@OFF:0x39b0
@SPK:[\protag]
@JPN:　鏑木さんはどう思います？
@ENG:

@IDX:61689
@OFF:0x3a0d
@SPK:［鏑木］
@JPN:　ん？　生と死についてか？
@ENG:

@IDX:61692
@OFF:0x3a5d
@SPK:[\protag]
@JPN:　いえ、この人がどんな人だったかってことです。
@ENG:

@IDX:61694
@OFF:0x3ace
@SPK:［鏑木］
@JPN:　そっちか。そうだな……年齢を感じさせない顔、鍛えられた身体……モデルとか、役者とか……他人の視線を意識する職に就いてた感じがするな。
@ENG:

@IDX:61697
@OFF:0x3b8a
@SPK:[\protag]
@JPN:　なるほど……。
@ENG:

@IDX:61699
@OFF:0x3bdd
@SPK:［鏑木］
@JPN:　でもどうして急にそんなこと考えたんだ？
@ENG:

@IDX:61702
@OFF:0x3c3b
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、それはですね、ちょっとこれ見てください。
@ENG:

@IDX:61704
@OFF:0x3cac
@SPK:［鏑木］
@JPN:　ん？　どれだ？
@ENG:

@IDX:61707
@OFF:0x3d06
@SPK:[\protag]
@JPN:　これです。頬のところにある、少しだけ色味の違う筋。
@ENG:

@IDX:61709
@OFF:0x3d7d
@SPK:［鏑木］
@JPN:　……ああ、確かに筋があるな。たぶん古い傷痕だろう。
@ENG:

@IDX:61712
@OFF:0x3de7
@SPK:[\protag]
@JPN:　ですよね、僕もそう思ったんです。で、この傷がどうしてついたんだろうって考えて……。
@ENG:

@IDX:61714
@OFF:0x3ef4
@SPK:［鏑木］
@JPN:　そうか。だがな、あんまりそういうこと考えん方がいいぞ。死体に感情移入することになるからな。
@ENG:

@IDX:61717
@OFF:0x3f86
@SPK:[\protag]
@JPN:　そうですね、気をつけます。
@ENG:

@IDX:61719
@OFF:0x3fe5
@SPK:［鏑木］
@JPN:　ああ、そうした方がいい。感情移入してつらくなるのはお前だからな……今日はもう帰っていいぞ。
@ENG:

@IDX:61722
@OFF:0x4077
@SPK:[\protag]
@JPN:　はい。お疲れ様でした。
@ENG:

@IDX:61724
@OFF:0x40d2
@SPK:［鏑木］
@JPN:　おう、お疲れ。
@ENG:

@IDX:61727
@OFF:0x41f5
@SPK:[\protag]
@JPN:　どうぞ……。
@ENG:

@IDX:61729
@OFF:0x42de
@SPK:［真魚］
@JPN:　……はい。報告書。
@ENG:

@IDX:61732
@OFF:0x4328
@SPK:[\protag]
@JPN:　ああ。
@ENG:

@IDX:61734
@OFF:0x43e9
@SPK:［真魚］
@JPN:　でね……昨日来た患者さんなんだけど。
@ENG:

@IDX:61737
@OFF:0x4445
@SPK:[\protag]
@JPN:　ストップ。
@ENG:

@IDX:61739
@OFF:0x450a
@SPK:［真魚］
@JPN:　ほえ？　何？
@ENG:

@IDX:61742
@OFF:0x454e
@SPK:[\protag]
@JPN:　お前、エグい話しようとしてないか？
@ENG:

@IDX:61744
@OFF:0x45b5
@SPK:［真魚］
@JPN:　そうだけど、それがどうかした？
@ENG:

@IDX:61747
@OFF:0x460b
@SPK:[\protag]
@JPN:　どうかしたって……エグい話は聞きたくないって言ったよな？
@ENG:

@IDX:61749
@OFF:0x46fe
@SPK:［真魚］
@JPN:　うん。言われた。
@ENG:

@IDX:61752
@OFF:0x4746
@SPK:[\protag]
@JPN:　じゃあ、どうしてエグい話しようとするんだよ。
@ENG:

@IDX:61754
@OFF:0x47b7
@SPK:［真魚］
@JPN:　聞きたいだろうと思って。
@ENG:

@IDX:61757
@OFF:0x4807
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:61759
@OFF:0x48d0
@SPK:［真魚］
@JPN:　聞きたいでしょ？　エグい話。
@ENG:

@IDX:61762
@OFF:0x4924
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:61764
@OFF:0x49e9
@SPK:［真魚］
@JPN:　ね？
@ENG:

@IDX:61767
@OFF:0x4a25
@SPK:[\protag]
@JPN:　ふぅ……分かったよ。聞いてやるよ。
@ENG:

@IDX:61769
@OFF:0x4a8c
@SPK:［真魚］
@JPN:　やった！
@ENG:

@IDX:61770
@OFF:0x4b28
@SPK:
@JPN:　あ、聞いてる間にサインしちゃって。
@ENG:

@IDX:61773
@OFF:0x4b82
@SPK:[\protag]
@JPN:　ああ、分かった。それで……その患者さんがどうしたんだ？
@ENG:

@IDX:61775
@OFF:0x4bfd
@SPK:［真魚］
@JPN:　うん。あのね、その患者さんの怪我が問題なんだけど……。
@ENG:

@IDX:61778
@OFF:0x4c6b
@SPK:[\protag]
@JPN:　怪我？
@ENG:

@IDX:61780
@OFF:0x4cb6
@SPK:［真魚］
@JPN:　うん。手を怪我してたの。
@ENG:

@IDX:61783
@OFF:0x4d06
@SPK:[\protag]
@JPN:　手か……ほれ、サインしたぞ。
@ENG:

@IDX:61785
@OFF:0x4d67
@SPK:［真魚］
@JPN:　あ、ありがと……で、もっと細かく言うと、手の指を怪我してたの。
@ENG:

@IDX:61788
@OFF:0x4ddd
@SPK:[\protag]
@JPN:　指？　骨折とかか？
@ENG:

@IDX:61790
@OFF:0x4e34
@SPK:［真魚］
@JPN:　ううん。違う。正確には指先の怪我かな……。
@ENG:

@IDX:61793
@OFF:0x4e96
@SPK:[\protag]
@JPN:　指先？
@ENG:

@IDX:61795
@OFF:0x4ee1
@SPK:［真魚］
@JPN:　木のささくれってあるでしょ？
@ENG:

@IDX:61798
@OFF:0x4f35
@SPK:[\protag]
@JPN:　何だよ急に。
@ENG:

@IDX:61800
@OFF:0x5000
@SPK:［真魚］
@JPN:　いいから、想像して。木のささくれ……分かりにくかったら割り箸を割る時に失敗した細いやつでもいいや。
@ENG:

@IDX:61803
@OFF:0x509a
@SPK:[\protag]
@JPN:　ああ……想像したぞ。
@ENG:

@IDX:61805
@OFF:0x50f3
@SPK:［真魚］
@JPN:　それがね……。
@ENG:

@IDX:61808
@OFF:0x5139
@SPK:[\protag]
@JPN:　これが……？
@ENG:

@IDX:61810
@OFF:0x5194
@SPK:［真魚］
@JPN:　爪の間から生えてるの。
@ENG:

@IDX:61814
@OFF:0x51fc
@SPK:[\protag]
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61815
@OFF:0x520a
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61816
@OFF:0x5218
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61817
@OFF:0x5226
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61818
@OFF:0x5242
@SPK:
@JPN:！
@ENG:

@IDX:61819
@OFF:0x5276
@SPK:
@JPN:　サーッと血の気が引いていくのを感じた。
@ENG:

@IDX:61820
@OFF:0x52ac
@SPK:
@JPN:　爪の間から生える木のささくれ。
@ENG:

@IDX:61821
@OFF:0x52da
@SPK:
@JPN:　それはつまり、爪と指の間に木のささくれが刺さっ　ているというわけで……。
@ENG:

@IDX:61822
@OFF:0x5340
@SPK:
@JPN:　そのあと真魚は治療の様子を話してくれた。
@ENG:

@IDX:61823
@OFF:0x5378
@SPK:
@JPN:　木のささくれを抜いた後、爪の間に木の棘が残って　しまったこと。
@ENG:

@IDX:61824
@OFF:0x53c6
@SPK:
@JPN:　木の棘を取るには爪を剥がすしかないこと。
@ENG:

@IDX:61825
@OFF:0x53fe
@SPK:
@JPN:　爪を剥がすのに、指先に部分麻酔を施したこと。
@ENG:

@IDX:61826
@OFF:0x543a
@SPK:
@JPN:　指先に部分麻酔を施す時に、爪の間に注射をすると　いうこと。
@ENG:

@IDX:61827
@OFF:0x54be
@SPK:
@JPN:　全てを語ると真魚は満足そうに帰っていった。
@ENG:

@IDX:61828
@OFF:0x54f8
@SPK:
@JPN:　僕は青ざめた顔で、真魚を見送った。
@ENG:

@IDX:61829
@OFF:0x552a
@SPK:
@JPN:　爪の間に何か挟まったような違和感だけが残った。　
@ENG:

@IDX:61830
@OFF:0x557c
@SPK:
@JPN:　…………？
@ENG:

@IDX:61831
@OFF:0x55a0
@SPK:
@JPN:　でも、どうして今の話で真魚が怒られるんだ？
@ENG:

@IDX:61832
@OFF:0x569f
@SPK:
@JPN:　ロビーにはすでに人が溢れていた。
@ENG:

@IDX:61833
@OFF:0x56cf
@SPK:
@JPN:　お弁当箱を真田さんに返そうと思っていたのだが、　この感じではもう忙しくなってるかもしれない。
@ENG:

@IDX:61834
@OFF:0x573b
@SPK:
@JPN:　どうしよう。
@ENG:

@IDX:61835
@OFF:0x5757
@SPK:
@JPN:　お昼には会えるはずだし、その時に返せばいいか？　
@ENG:

@IDX:61836
@OFF:0x57ab
@SPK:
@JPN:後にしよう
@ENG:

@IDX:61837
@OFF:0x57bc
@SPK:
@JPN:今すぐ返そう
@ENG:

@IDX:61838
@OFF:0x5807
@SPK:
@JPN:　そうだな。
@ENG:

@IDX:61839
@OFF:0x5821
@SPK:
@JPN:　仕事の邪魔になっちゃ悪いし。
@ENG:

@IDX:61840
@OFF:0x584d
@SPK:
@JPN:　後にしよう。
@ENG:

@IDX:61841
@OFF:0x5894
@SPK:
@JPN:　こういうことは早い方がいい。
@ENG:

@IDX:61842
@OFF:0x58c0
@SPK:
@JPN:　思い立ったが吉日って言うしな。
@ENG:

@IDX:61843
@OFF:0x58ee
@SPK:
@JPN:　……で、真田さんはっと……。
@ENG:

@IDX:61844
@OFF:0x592c
@SPK:
@JPN:　あれ？
@ENG:

@IDX:61845
@OFF:0x5942
@SPK:
@JPN:　見当たらないな。
@ENG:

@IDX:61846
@OFF:0x5962
@SPK:
@JPN:　確か昨日はあの窓口にいたと思うんだけど……。
@ENG:

@IDX:61849
@OFF:0x59ec
@SPK:[\protag]
@JPN:　あっ、すみません……。
@ENG:

@IDX:61850
@OFF:0x5a42
@SPK:
@JPN:　だんだん込んできたな。
@ENG:

@IDX:61851
@OFF:0x5a68
@SPK:
@JPN:　このままここにいたんじゃ、迷惑になりそうだ。
@ENG:

@IDX:61852
@OFF:0x5aa4
@SPK:
@JPN:　また警備員を呼ばれるのもイヤだしな。
@ENG:

@IDX:61853
@OFF:0x5ad8
@SPK:
@JPN:　仕方がない。
@ENG:

@IDX:61854
@OFF:0x5af4
@SPK:
@JPN:　お弁当箱を返すのは昼休みにしよう。
@ENG:

@IDX:61855
@OFF:0x5bfd
@SPK:
@JPN:　部屋に戻ってから、ふと気づいた。
@ENG:

@IDX:61856
@OFF:0x5c2d
@SPK:
@JPN:　今日は朝仕事だけなのか？
@ENG:

@IDX:61857
@OFF:0x5c55
@SPK:
@JPN:　真魚は何も言ってなかったけど……いいのか？
@ENG:

@IDX:61858
@OFF:0x5ca7
@SPK:
@JPN:　…
@ENG:

@IDX:61859
@OFF:0x5cb7
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61860
@OFF:0x5cc5
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61861
@OFF:0x5cd3
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61862
@OFF:0x5ce1
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61863
@OFF:0x5cef
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61864
@OFF:0x5d03
@SPK:
@JPN:まあ、いいか。
@ENG:

@IDX:61865
@OFF:0x5d1f
@SPK:
@JPN:　仕事があればむこうから連絡してくるだろう。
@ENG:

@IDX:61866
@OFF:0x5e24
@SPK:
@JPN:　お昼になったので、病院に出てきた。
@ENG:

@IDX:61867
@OFF:0x5e56
@SPK:
@JPN:　今日も真田さんのお弁当が食べられるはずだ。
@ENG:

@IDX:61868
@OFF:0x5ea2
@SPK:
@JPN:　自然と歩き方がウキウキしたものになる。
@ENG:

@IDX:61869
@OFF:0x5ed8
@SPK:
@JPN:　傍らでカタカタと音がする。
@ENG:

@IDX:61870
@OFF:0x5f02
@SPK:
@JPN:　昨日のお弁当箱が楽しげな音を奏でていた。
@ENG:

@IDX:61871
@OFF:0x5ffb
@SPK:
@JPN:　雑木林の広場には、誰もいなかった。
@ENG:

@IDX:61872
@OFF:0x602d
@SPK:
@JPN:　真田さんはまだ来ていないのか。
@ENG:

@IDX:61873
@OFF:0x606d
@SPK:
@JPN:　ベンチに腰を下ろして真田さんを待つ。
@ENG:

@IDX:61874
@OFF:0x60a1
@SPK:
@JPN:　これから訪れるであろう楽しい時間が、ただ待って　いるだけの時間をも楽しく彩ってくれた。
@ENG:

@IDX:61875
@OFF:0x61c2
@SPK:
@JPN:　３０分くらい経っただろうか。
@ENG:

@IDX:61876
@OFF:0x61ee
@SPK:
@JPN:　まだ真田さんは姿を現さない。
@ENG:

@IDX:61877
@OFF:0x622c
@SPK:
@JPN:　おかしい。
@ENG:

@IDX:61878
@OFF:0x6246
@SPK:
@JPN:　とっくに昼休みにはなっているはずだ。
@ENG:

@IDX:61879
@OFF:0x627a
@SPK:
@JPN:　それとも、待ち合わせの場所を間違えたのか？
@ENG:

@IDX:61880
@OFF:0x62c4
@SPK:
@JPN:　心に何か引っかかるものがある。
@ENG:

@IDX:61881
@OFF:0x62f2
@SPK:
@JPN:　……約束……待ち合わせ。
@ENG:

@IDX:61882
@OFF:0x631a
@SPK:
@JPN:　待てよ……。
@ENG:

@IDX:61883
@OFF:0x6336
@SPK:
@JPN:　昨日真田さんと約束なんかしたか？
@ENG:

@IDX:61885
@OFF:0x64b6
@SPK:［美和子］
@JPN:　ううん、別に気にしないで。お弁当箱は明日でいいから。それじゃあ、行くね。バイバイ。
@ENG:

@IDX:61886
@OFF:0x65e3
@SPK:
@JPN:　…………してない。
@ENG:

@IDX:61887
@OFF:0x6605
@SPK:
@JPN:　確かに『明日』という単語は含まれていた。
@ENG:

@IDX:61888
@OFF:0x663d
@SPK:
@JPN:　でも待ち合わせの約束はしてない。
@ENG:

@IDX:61889
@OFF:0x666d
@SPK:
@JPN:　『お弁当箱』とは言っている。
@ENG:

@IDX:61890
@OFF:0x6699
@SPK:
@JPN:　でもお弁当を作ってきてくれるとは言っていない。　
@ENG:

@IDX:61891
@OFF:0x66e9
@SPK:
@JPN:　……完全に僕の勘違いだ。
@ENG:

@IDX:61892
@OFF:0x6711
@SPK:
@JPN:　今日もお昼の約束をしたつもりになっていた。
@ENG:

@IDX:61893
@OFF:0x674b
@SPK:
@JPN:　どうしてこんな勘違いをしてしまったんだろう。
@ENG:

@IDX:61894
@OFF:0x6787
@SPK:
@JPN:　恥ずかしい。
@ENG:

@IDX:61895
@OFF:0x67a3
@SPK:
@JPN:　恥ずかしすぎる。
@ENG:

@IDX:61896
@OFF:0x682c
@SPK:
@JPN:　僕はいたたまれない気持ちになって、雑木林をあと　にした。
@ENG:

@IDX:61897
@OFF:0x68fc
@SPK:
@JPN:　ロビーは朝と大して変わっていなかった。
@ENG:

@IDX:61898
@OFF:0x6932
@SPK:
@JPN:　来院してきた人々。
@ENG:

@IDX:61899
@OFF:0x6954
@SPK:
@JPN:　忙しそうに立ち回る医者や看護婦。
@ENG:

@IDX:61900
@OFF:0x6984
@SPK:
@JPN:　そして、カウンターの中の事務員たち。
@ENG:

@IDX:61901
@OFF:0x69ca
@SPK:
@JPN:　僕の仕事とはまったく関わり合いのない人たち。
@ENG:

@IDX:61902
@OFF:0x6a06
@SPK:
@JPN:　もっとも、この人たちの中に献体登録している人が　いないとも限らないが……。
@ENG:

@IDX:61903
@OFF:0x6a72
@SPK:
@JPN:　僕はカウンターに近づいた。
@ENG:

@IDX:61904
@OFF:0x6a9c
@SPK:
@JPN:　キョロキョロと見回すが、真田さんの姿はない。
@ENG:

@IDX:61905
@OFF:0x6ad8
@SPK:
@JPN:　おそらくお昼休みを取っているのだろう。
@ENG:

@IDX:61906
@OFF:0x6b1e
@SPK:
@JPN:　知り合いの事務員を捕まえて、お弁当箱を渡す。
@ENG:

@IDX:61907
@OFF:0x6b5a
@SPK:
@JPN:　どうしてこんなものを僕が持っているのか、色々と　聞いてきたが、適当に受け答えをして何とかやり過　ごす。
@ENG:

@IDX:61908
@OFF:0x6bde
@SPK:
@JPN:　これでお弁当箱の件は片づいた。
@ENG:

@IDX:61909
@OFF:0x6c0c
@SPK:
@JPN:　あんなものを持っているから、僕も変な期待をして　しまうんだ。
@ENG:

@IDX:61910
@OFF:0x6c58
@SPK:
@JPN:　冷静に考えればすぐに分かることだった。
@ENG:

@IDX:61911
@OFF:0x6c8e
@SPK:
@JPN:　真田さんのような年上の素敵な人が、単なる浪人生　の僕に、特別な感情を持ってくれるはずがない。
@ENG:

@IDX:61912
@OFF:0x6cfa
@SPK:
@JPN:　いつの間にか一人で暴走してしまっていたのだ。
@ENG:

@IDX:61913
@OFF:0x6dfd
@SPK:
@JPN:　食堂でお昼を食べた後、部屋に戻ってきた。
@ENG:

@IDX:61914
@OFF:0x6e35
@SPK:
@JPN:　今日はこのあと何の予定も入っていない。
@ENG:

@IDX:61915
@OFF:0x6e6b
@SPK:
@JPN:　ゆっくり自分のためだけに行動ができる。
@ENG:

@IDX:61916
@OFF:0x6ea1
@SPK:
@JPN:　急に仕事が入ったりしなければの話だが。
@ENG:

@IDX:61917
@OFF:0x6eeb
@SPK:
@JPN:洗濯する
@ENG:

@IDX:61918
@OFF:0x6efa
@SPK:
@JPN:掃除する
@ENG:

@IDX:61919
@OFF:0x6f09
@SPK:
@JPN:勉強する
@ENG:

@IDX:61920
@OFF:0x6f56
@SPK:
@JPN:　まずは洗濯でもしよう。
@ENG:

@IDX:61921
@OFF:0x6f7c
@SPK:
@JPN:　そう思って洗濯籠を覗くと、中にはほとんどなにも　入っていなかった。
@ENG:

@IDX:61922
@OFF:0x6fce
@SPK:
@JPN:　そう言えば、昨日洗濯はしたんだった。
@ENG:

@IDX:61923
@OFF:0x7012
@SPK:
@JPN:　バッグから、今日使ったタオルとジャージを取り出　して、洗濯籠に加える。
@ENG:

@IDX:61924
@OFF:0x7068
@SPK:
@JPN:　とりあえず、これだけでも洗ってしまおう。
@ENG:

@IDX:61925
@OFF:0x70a0
@SPK:
@JPN:　あんまり溜めると面倒になるからな。
@ENG:

@IDX:61926
@OFF:0x7156
@SPK:
@JPN:　まずは掃除でもしよう。
@ENG:

@IDX:61927
@OFF:0x717c
@SPK:
@JPN:　そう思って部屋を見回す。
@ENG:

@IDX:61928
@OFF:0x71a4
@SPK:
@JPN:　だが、部屋はそんなに散らかっていない。
@ENG:

@IDX:61929
@OFF:0x71da
@SPK:
@JPN:　そう言えば、昨日掃除をしたんだったな。
@ENG:

@IDX:61930
@OFF:0x7220
@SPK:
@JPN:　それじゃあ洗濯でもするか。
@ENG:

@IDX:61931
@OFF:0x724a
@SPK:
@JPN:　そう思って洗濯籠を覗くと、中にはほとんどなにも　入っていなかった。
@ENG:

@IDX:61932
@OFF:0x729c
@SPK:
@JPN:　そう言えば、洗濯も昨日したんだった。
@ENG:

@IDX:61933
@OFF:0x72e0
@SPK:
@JPN:　バッグから、今日使ったタオルとジャージを取り出　して、洗濯籠に加える。
@ENG:

@IDX:61934
@OFF:0x7336
@SPK:
@JPN:　とりあえず、これだけでも洗ってしまおう。
@ENG:

@IDX:61935
@OFF:0x736e
@SPK:
@JPN:　あんまり溜めると面倒になるからな。
@ENG:

@IDX:61936
@OFF:0x7422
@SPK:
@JPN:　そうだな。
@ENG:

@IDX:61937
@OFF:0x743c
@SPK:
@JPN:　僕は浪人生で、浪人生の本分は勉強だ。
@ENG:

@IDX:61938
@OFF:0x7470
@SPK:
@JPN:　でも、最近あんまり勉強してない気がする。
@ENG:

@IDX:61939
@OFF:0x74a8
@SPK:
@JPN:　これじゃあ、お金の工面ができたとしても、試験の　方で大学に行けないかもしれない。
@ENG:

@IDX:61940
@OFF:0x7508
@SPK:
@JPN:　まずい。それはまずい。はっきり言ってもっと勉強　しないとまずい。
@ENG:

@IDX:61941
@OFF:0x7572
@SPK:
@JPN:　…
@ENG:

@IDX:61942
@OFF:0x7582
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61943
@OFF:0x7590
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61944
@OFF:0x759e
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61945
@OFF:0x75ac
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61946
@OFF:0x75ba
@SPK:
@JPN:…
@ENG:

@IDX:61947
@OFF:0x75c8
@SPK:
@JPN:。
@ENG:

@IDX:61948
@OFF:0x75ec
@SPK:
@JPN:　そう思って参考書を開いたものの、どうも落ち着か　ない。
@ENG:

@IDX:61949
@OFF:0x7632
@SPK:
@JPN:　頭に浮かぶのは勉強とは関係のないことばかり。
@ENG:

@IDX:61950
@OFF:0x766e
@SPK:
@JPN:　焦れば焦るほど余計な考えに頭が支配されていく。　
@ENG:

@IDX:61951
@OFF:0x76c0
@SPK:
@JPN:　これじゃダメだ。
@ENG:

@IDX:61952
@OFF:0x76e0
@SPK:
@JPN:　何か他のことをして気分転換しよう。
@ENG:

@IDX:61953
@OFF:0x7722
@SPK:
@JPN:　とりあえず掃除でも……。
@ENG:

@IDX:61954
@OFF:0x774a
@SPK:
@JPN:　部屋の中を見回す。
@ENG:

@IDX:61955
@OFF:0x776c
@SPK:
@JPN:　だが、ほとんど散らかっていない。
@ENG:

@IDX:61956
@OFF:0x779c
@SPK:
@JPN:　当たり前だ。昨日掃除したばかりなのだから。
@ENG:

@IDX:61957
@OFF:0x77e6
@SPK:
@JPN:　じゃあ、洗濯でも……。
@ENG:

@IDX:61958
@OFF:0x780c
@SPK:
@JPN:　洗濯籠を覗き込む。
@ENG:

@IDX:61959
@OFF:0x782e
@SPK:
@JPN:　中はほとんど空。
@ENG:

@IDX:61960
@OFF:0x784e
@SPK:
@JPN:　それはそうだ。洗濯も昨日したばかりだからな。
@ENG:

@IDX:61961
@OFF:0x789a
@SPK:
@JPN:　仕方なく、もう一度参考書の前に座る。
@ENG:

@IDX:61962
@OFF:0x78ce
@SPK:
@JPN:　だが、どうにも落ち着かない。
@ENG:

@IDX:61963
@OFF:0x78fa
@SPK:
@JPN:　ふと部屋の隅のバッグが目に入る。
@ENG:

@IDX:61964
@OFF:0x792a
@SPK:
@JPN:　そうだ、まだ汚れ物があった。
@ENG:

@IDX:61965
@OFF:0x7964
@SPK:
@JPN:　バッグから、今日使ったタオルとジャージを取り出　して、洗濯籠に加える。
@ENG:

@IDX:61966
@OFF:0x79ba
@SPK:
@JPN:　洗濯機に放り込んでスイッチを入れる。
@ENG:

@IDX:61967
@OFF:0x79ee
@SPK:
@JPN:　グイーンと音を立てて、緩やかな渦が生まれる。
@ENG:

@IDX:61968
@OFF:0x7a2a
@SPK:
@JPN:　グルグルと回る螺旋を眺めているうちに、徐々に心　が落ち着き始めた。
@ENG:

@IDX:61969
@OFF:0x7b50
@SPK:
@JPN:　気がつくと日が暮れていた。
@ENG:

@IDX:61970
@OFF:0x7b7a
@SPK:
@JPN:　洗濯をした後、シャワーを浴びて、参考書を開いた　ところくらいまでは意識が連続している。
@ENG:

@IDX:61971
@OFF:0x7be0
@SPK:
@JPN:　だが、その後はあまりはっきりしない。
@ENG:

@IDX:61972
@OFF:0x7c14
@SPK:
@JPN:　集中して勉強していたのは覚えているのだが、かな　り時間の感覚が曖昧になっている。
@ENG:

@IDX:61973
@OFF:0x7c9a
@SPK:
@JPN:　腹時計は狂っていないようだった。
@ENG:

@IDX:61974
@OFF:0x7cca
@SPK:
@JPN:　……たぶん、おそらく。
@ENG:

@IDX:61975
@OFF:0x7d10
@SPK:
@JPN:　あれ？
@ENG:

@IDX:61976
@OFF:0x7d26
@SPK:
@JPN:　誰か来たのか？
@ENG:

@IDX:61979
@OFF:0x7d8e
@SPK:[\protag]
@JPN:　はい！　いま開けます。
@ENG:

@IDX:61982
@OFF:0x7e6c
@SPK:[\protag]
@JPN:　あっ！
@ENG:

@IDX:61984
@OFF:0x7eb9
@SPK:［美和子］
@JPN:　こんばんわ。
@ENG:

@IDX:61987
@OFF:0x7efd
@SPK:[\protag]
@JPN:　こ、こんばんわ……。
@ENG:

@IDX:61989
@OFF:0x7f58
@SPK:［美和子］
@JPN:　夕食、まだだよね？
@ENG:

@IDX:61992
@OFF:0x7fa2
@SPK:[\protag]
@JPN:　え、ええ。
@ENG:

@IDX:61994
@OFF:0x7ff3
@SPK:［美和子］
@JPN:　よかった……キッチン借りてもいいかな？
@ENG:

@IDX:61997
@OFF:0x8051
@SPK:[\protag]
@JPN:　いいですけど……。
@ENG:

@IDX:61999
@OFF:0x80aa
@SPK:［美和子］
@JPN:　じゃあ、すぐ用意しちゃうから待っててね。
@ENG:

@IDX:62000
@OFF:0x8114
@SPK:
@JPN:　一体どういうことなんだ？
@ENG:

@IDX:62001
@OFF:0x813c
@SPK:
@JPN:　夕食？　キッチン？　用意？
@ENG:

@IDX:62002
@OFF:0x8166
@SPK:
@JPN:　夕食を作りに来てくれたってことなのか？
@ENG:

@IDX:62003
@OFF:0x819c
@SPK:
@JPN:　なんで？　どうして？
@ENG:

@IDX:62004
@OFF:0x81c0
@SPK:
@JPN:　真田さんの真意がさっぱり分からない。
@ENG:

@IDX:62005
@OFF:0x8206
@SPK:
@JPN:　呆然と立ちすくむ僕の前で、真田さんは右に左に、　滅多に使われることのないキッチンを使って、食事　の用意をすすめていく。
@ENG:

@IDX:62007
@OFF:0x83db
@SPK:［美和子］
@JPN:　はい、できた。
@ENG:

@IDX:62010
@OFF:0x8421
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:62012
@OFF:0x8472
@SPK:［美和子］
@JPN:　ほらほら、そんなところに立ってないで座って座って。
@ENG:

@IDX:62013
@OFF:0x8529
@SPK:
@JPN:　真田さんに導かれるまま席に着く。
@ENG:

@IDX:62014
@OFF:0x8559
@SPK:
@JPN:　僕の部屋には料理のいい匂いがしている。
@ENG:

@IDX:62015
@OFF:0x858f
@SPK:
@JPN:　おそらくそれは、初めての出来事。
@ENG:

@IDX:62016
@OFF:0x85bf
@SPK:
@JPN:　僕がこの部屋を使い始めてから、初めての食卓。
@ENG:

@IDX:62018
@OFF:0x86d1
@SPK:［美和子］
@JPN:　さあ、遠慮しないで食べてね。
@ENG:

@IDX:62021
@OFF:0x8725
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:62023
@OFF:0x8776
@SPK:［美和子］
@JPN:　どうしたの？　食べてくれないの？
@ENG:

@IDX:62026
@OFF:0x87ce
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、あの……どういうことですか？
@ENG:

@IDX:62028
@OFF:0x88f1
@SPK:［美和子］
@JPN:　え？
@ENG:

@IDX:62031
@OFF:0x892d
@SPK:[\protag]
@JPN:　どうして、急に夕食なんか作りに来てくれたんですか？
@ENG:

@IDX:62033
@OFF:0x8a62
@SPK:［美和子］
@JPN:　どうしてって……もしかして、迷惑してる？
@ENG:

@IDX:62036
@OFF:0x8ac2
@SPK:[\protag]
@JPN:　いえ、迷惑してるんじゃありません。混乱してるんです。
@ENG:

@IDX:62038
@OFF:0x8b3d
@SPK:［美和子］
@JPN:　混乱？
@ENG:

@IDX:62041
@OFF:0x8b7b
@SPK:[\protag]
@JPN:　そうです。一体全体どうしてこんなことになってるのかまったく分からないんです。
@ENG:

@IDX:62043
@OFF:0x8c0e
@SPK:［美和子］
@JPN:　だって、今日お昼一緒に食べられなかったでしょ？
@ENG:

@IDX:62046
@OFF:0x8c74
@SPK:[\protag]
@JPN:　でも……今日は約束してなかったから。
@ENG:

@IDX:62048
@OFF:0x8d9b
@SPK:［美和子］
@JPN:　え？
@ENG:

@IDX:62051
@OFF:0x8dd7
@SPK:[\protag]
@JPN:　だから、来てくれなかったんですよね？
@ENG:

@IDX:62053
@OFF:0x8e42
@SPK:［美和子］
@JPN:　来てくれなかったって……？
@ENG:

@IDX:62056
@OFF:0x8e94
@SPK:[\protag]
@JPN:　僕、今日のお昼、雑木林に行ったんです。てっきり約束した気になってて。
@ENG:

@IDX:62058
@OFF:0x8f1f
@SPK:［美和子］
@JPN:　もしかして……聞いてないの？
@ENG:

@IDX:62061
@OFF:0x8f73
@SPK:[\protag]
@JPN:　え？　聞いてないって？　何がですか？
@ENG:

@IDX:62063
@OFF:0x909a
@SPK:［美和子］
@JPN:　今日、私、朝から大学の方に行ってたのよ。それで一緒にお昼食べられないからゴメンねって伝言頼んでおいたんだけど……。
@ENG:

@IDX:62066
@OFF:0x9144
@SPK:[\protag]
@JPN:　僕そんなこと聞いてませんけど……。
@ENG:

@IDX:62068
@OFF:0x91ad
@SPK:［美和子］
@JPN:　おかしいなぁ……キミ今日病院に顔出してるよね？
@ENG:

@IDX:62071
@OFF:0x9213
@SPK:[\protag]
@JPN:　ええ、仕事がありましたから。
@ENG:

@IDX:62073
@OFF:0x9276
@SPK:［美和子］
@JPN:　事務局には顔出してない？
@ENG:

@IDX:62076
@OFF:0x92c6
@SPK:[\protag]
@JPN:　いえ……お弁当箱を預けに行きました。
@ENG:

@IDX:62078
@OFF:0x9331
@SPK:［美和子］
@JPN:　お弁当箱？　もしかして昨日の？
@ENG:

@IDX:62081
@OFF:0x9387
@SPK:[\protag]
@JPN:　ええ、そうです。返しにいったんですけど、真田さんが見つからなかったんで、木下さんに預けてきました。
@ENG:

@IDX:62083
@OFF:0x9430
@SPK:［美和子］
@JPN:　え？　木下って、笙子のことだよね？
@ENG:

@IDX:62086
@OFF:0x948a
@SPK:[\protag]
@JPN:　はい、そうですけど。
@ENG:

@IDX:62088
@OFF:0x94e5
@SPK:［美和子］
@JPN:　でも、伝言は聞いてない。
@ENG:

@IDX:62091
@OFF:0x9535
@SPK:[\protag]
@JPN:　ええ……もしかして、木下さんに頼んだんですか？
@ENG:

@IDX:62093
@OFF:0x95aa
@SPK:［美和子］
@JPN:　もうー、笙子のやつぅ……。
@ENG:

@IDX:62096
@OFF:0x95fc
@SPK:[\protag]
@JPN:　あの、真田さん？
@ENG:

@IDX:62098
@OFF:0x970f
@SPK:［美和子］
@JPN:　ん？　なに？
@ENG:

@IDX:62101
@OFF:0x9753
@SPK:[\protag]
@JPN:　ってことは……あの……大学の方に行く用事がなかったら……今日もお弁当作ってきてくれたんですか？
@ENG:

@IDX:62103
@OFF:0x97f8
@SPK:［美和子］
@JPN:　うん。そのつもりだったけど？
@ENG:

@IDX:62106
@OFF:0x984c
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:62108
@OFF:0x989d
@SPK:［美和子］
@JPN:　バイト君？
@ENG:

@IDX:62111
@OFF:0x98df
@SPK:[\protag]
@JPN:　あの……夕食にしましょうか？
@ENG:

@IDX:62113
@OFF:0x99fe
@SPK:［美和子］
@JPN:　え？　
@ENG:

@IDX:62114
@OFF:0x9ab1
@SPK:
@JPN:ええ。そうね。
@ENG:

@IDX:62115
@OFF:0x9af1
@SPK:
@JPN:　真田さんの真意はよく分からないけど、今はとりあ　えずこの時を楽しもう。
@ENG:

@IDX:62116
@OFF:0x9b47
@SPK:
@JPN:　少なくとも僕は嫌われていない。
@ENG:

@IDX:62117
@OFF:0x9b75
@SPK:
@JPN:　そしておそらく僕の気持ちは……。
@ENG:

@IDX:62120
@OFF:0x9cc4
@SPK:[\protag]
@JPN:　ごちそうさまでした。
@ENG:

@IDX:62122
@OFF:0x9d1f
@SPK:［美和子］
@JPN:　おそまつさま……で、どうだった？
@ENG:

@IDX:62125
@OFF:0x9d77
@SPK:[\protag]
@JPN:　はい、美味しかったです。
@ENG:

@IDX:62127
@OFF:0x9e92
@SPK:［美和子］
@JPN:　それだけなの？
@ENG:

@IDX:62130
@OFF:0x9ed8
@SPK:[\protag]
@JPN:　そうですね……お弁当とはやっぱり違います。できたての味っていうか、なんていうか……。
@ENG:

@IDX:62132
@OFF:0xa02f
@SPK:［美和子］
@JPN:　クスクス……よく分かんないけど、満足してくれたみたいでよかった。
@ENG:

@IDX:62135
@OFF:0xa0a7
@SPK:[\protag]
@JPN:　真田さん……。
@ENG:

@IDX:62137
@OFF:0xa0fc
@SPK:［美和子］
@JPN:　ん？　何？
@ENG:

@IDX:62140
@OFF:0xa13e
@SPK:[\protag]
@JPN:　どうして僕にこんなことしてくれるんですか？
@ENG:

@IDX:62142
@OFF:0xa1af
@SPK:［美和子］
@JPN:　こんなことって？
@ENG:

@IDX:62145
@OFF:0xa1f7
@SPK:[\protag]
@JPN:　お弁当作ってくれたり……夕食作りに来てくれたり……。
@ENG:

@IDX:62147
@OFF:0xa32e
@SPK:［美和子］
@JPN:　……もしかしてイヤなの？
@ENG:

@IDX:62150
@OFF:0xa37e
@SPK:[\protag]
@JPN:　い、いえ！　そんなことありません！　すごく嬉しいです！
@ENG:

@IDX:62152
@OFF:0xa4b7
@SPK:［美和子］
@JPN:　じゃあいいじゃない。キミも嬉しい、私も楽しい。何にも問題ないじゃない。
@ENG:

@IDX:62155
@OFF:0xa535
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:62157
@OFF:0xa586
@SPK:［美和子］
@JPN:　……でしょ？
@ENG:

@IDX:62160
@OFF:0xa5ca
@SPK:[\protag]
@JPN:　僕、今日雑木林で待ってたんです。真田さんのこと。
@ENG:

@IDX:62162
@OFF:0xa6fd
@SPK:［美和子］
@JPN:　え？　急にどうしたの？
@ENG:

@IDX:62165
@OFF:0xa74b
@SPK:[\protag]
@JPN:　それで、ドキドキしてワクワクして……だけど、真田さんは来なくて……。
@ENG:

@IDX:62167
@OFF:0xa892
@SPK:［美和子］
@JPN:　それはさっき言ったでしょ？
@ENG:

@IDX:62170
@OFF:0xa8e4
@SPK:[\protag]
@JPN:　ええ。今は分かってます。でも、お昼の僕は知らなかったから……。
@ENG:

@IDX:62172
@OFF:0xa969
@SPK:［美和子］
@JPN:　……ごめんね、ちゃんと伝言伝わらなくって……。
@ENG:

@IDX:62175
@OFF:0xa9cf
@SPK:[\protag]
@JPN:　いえ、いいんです。真田さんは悪くありませんから。それに、真田さんを責めたくてこの話を始めたんじゃないんです。
@ENG:

@IDX:62177
@OFF:0xaa82
@SPK:［美和子］
@JPN:　どういうこと？
@ENG:

@IDX:62180
@OFF:0xaac8
@SPK:[\protag]
@JPN:　雑木林で待ってて、真田さんが来なくて……それで考えてみたら、ちゃんと約束したわけじゃないことに気づいたんです。
@ENG:

@IDX:62182
@OFF:0xab7d
@SPK:［美和子］
@JPN:　え？　そうだったっけ？
@ENG:

@IDX:62185
@OFF:0xabcb
@SPK:[\protag]
@JPN:　ええ、してません。それなのに僕、勘違いして勝手に暴走して勝手に期待して勝手に失望して……。
@ENG:

@IDX:62187
@OFF:0xac6c
@SPK:［美和子］
@JPN:　……バイト君……。
@ENG:

@IDX:62190
@OFF:0xacb6
@SPK:[\protag]
@JPN:　こんなに優しくされたら、勘違いしちゃいます……期待しちゃいます。
@ENG:

@IDX:62192
@OFF:0xad3d
@SPK:［美和子］
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:62195
@OFF:0xad7f
@SPK:[\protag]
@JPN:　僕、期待してもいいんですか？　勘違いしても構わないんですか？
@ENG:

@IDX:62197
@OFF:0xae02
@SPK:［美和子］
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:62200
@OFF:0xae44
@SPK:[\protag]
@JPN:　…………真田さん。
@ENG:

@IDX:62202
@OFF:0xae9d
@SPK:［美和子］
@JPN:　…………。
@ENG:

@IDX:62205
@OFF:0xaedf
@SPK:[\protag]
@JPN:　僕、あなたのことが……。
@ENG:

@IDX:62207
@OFF:0xaffa
@SPK:［美和子］
@JPN:　あ！　わ、私お茶いれるね。
@ENG:

@IDX:62210
@OFF:0xb099
@SPK:[\protag]
@JPN:　え？　ちょ、ちょっと待ってください！
@ENG:

@IDX:62212
@OFF:0xb10e
@SPK:［美和子］
@JPN:　きゃっ！
@ENG:

@IDX:62213
@OFF:0xb15e
@SPK:
@JPN:　僕の言葉を遮るように立ち上がる真田さんの腕を、　思わず引っ張ってしまった。
@ENG:

@IDX:62214
@OFF:0xb1b8
@SPK:
@JPN:　真田さんはバランスを崩して倒れこんできた。
@ENG:

@IDX:62215
@OFF:0xb206
@SPK:
@JPN:　倒れてくる真田さんをかばおうと、僕は自分の身体　をクッションのように下敷きにした。
@ENG:

@IDX:62216
@OFF:0xb268
@SPK:
@JPN:　もつれるようにして二人は倒れた。
@ENG:

@IDX:62217
@OFF:0xb298
@SPK:
@JPN:　気がつくと真田さんを強く抱きしめるような体勢に　なっていた。
@ENG:

@IDX:62218
@OFF:0xb2fc
@SPK:
@JPN:　突然の予想外の抱擁。
@ENG:

@IDX:62219
@OFF:0xb320
@SPK:
@JPN:　僕の心臓は空前絶後の大鼓動を始めた。
@ENG:

@IDX:62220
@OFF:0xb354
@SPK:
@JPN:　真田さんの芳香が強く鼻腔をくすぐる。
@ENG:

@IDX:62221
@OFF:0xb388
@SPK:
@JPN:　モゾモゾと僕の腕の中で動く真田さん。
@ENG:

@IDX:62223
@OFF:0xb407
@SPK:［美和子］
@JPN:　苦しいよ、バイト君……。
@ENG:

@IDX:62226
@OFF:0xb457
@SPK:[\protag]
@JPN:　す、すいません。
@ENG:

@IDX:62227
@OFF:0xb4ec
@SPK:
@JPN:　バッと僕は腕を解いて真田さんを解放した。
@ENG:

@IDX:62228
@OFF:0xb524
@SPK:
@JPN:　絡み合う視線と視線。
@ENG:

@IDX:62229
@OFF:0xb548
@SPK:
@JPN:　真田さんの瞳の中に僕がいる。
@ENG:

@IDX:62230
@OFF:0xb574
@SPK:
@JPN:　そして僕の瞳には真田さんが……。
@ENG:

@IDX:62233
@OFF:0xb5e0
@SPK:[\protag]
@JPN:　真田さん、僕……。
@ENG:

@IDX:62235
@OFF:0xb639
@SPK:［美和子］
@JPN:　バイト君……。
@ENG:

@IDX:62236
@OFF:0xb679
@SPK:
@JPN:　空気が甘くなる。
@ENG:

@IDX:62237
@OFF:0xb699
@SPK:
@JPN:　真田さんの視線が柔らかくなる。
@ENG:

@IDX:62238
@OFF:0xb6c7
@SPK:
@JPN:　これは多分二人の心が重なったせい。
@ENG:

@IDX:62239
@OFF:0xb6f9
@SPK:
@JPN:　僕の気持ちは真田さんに伝わった。
@ENG:

@IDX:62240
@OFF:0xb729
@SPK:
@JPN:　真田さんも僕の気持ちを受け入れてくれた。
@ENG:

@IDX:62241
@OFF:0xb761
@SPK:
@JPN:　僕の中の原始的な部分が、そう囁いていた。
@ENG:

@IDX:62242
@OFF:0xb7a9
@SPK:
@JPN:　ゆっくりと近づく二人の顔。
@ENG:

@IDX:62243
@OFF:0xb7d3
@SPK:
@JPN:　瞳と瞳が近づいて、息が触れ合う。
@ENG:

@IDX:62244
@OFF:0xb803
@SPK:
@JPN:　聞こえるのは二人の鼓動だけ。
@ENG:

@IDX:62245
@OFF:0xb82f
@SPK:
@JPN:　柔らかい真田さんの唇が、僕の唇と……。
@ENG:

@IDX:62247
@OFF:0xb903
@SPK:［美和子］
@JPN:　きゃっ！
@ENG:

@IDX:62250
@OFF:0xb943
@SPK:[\protag]
@JPN:　うわっ！
@ENG:

@IDX:62251
@OFF:0xb9cc
@SPK:
@JPN:　唐突に二人だけの世界が崩壊した。
@ENG:

@IDX:62252
@OFF:0xb9fc
@SPK:
@JPN:　闖入者は電話の音。
@ENG:

@IDX:62253
@OFF:0xba1e
@SPK:
@JPN:　一体誰だろう、こんなタイミングで……。
@ENG:

@IDX:62254
@OFF:0xba64
@SPK:
@JPN:　せっかくのいい雰囲気が台無し。
@ENG:

@IDX:62255
@OFF:0xba92
@SPK:
@JPN:　しかも、二人の間の空気はギクシャクと凝固し始め　ている。
@ENG:

@IDX:62256
@OFF:0xbada
@SPK:
@JPN:　無視しようかと思ったが、電話に出よう。
@ENG:

@IDX:62257
@OFF:0xbb10
@SPK:
@JPN:　文句の一つでも言ってやらないと気が済まない。
@ENG:

@IDX:62260
@OFF:0xbb9a
@SPK:[\protag]
@JPN:　もしもし？
@ENG:

@IDX:62262
@OFF:0xbbf3
@SPK:［女の声］
@JPN:　今、時間いいかしら？
@ENG:

@IDX:62265
@OFF:0xbc3f
@SPK:[\protag]
@JPN:　え？　ふ、副院長！？
@ENG:

@IDX:62267
@OFF:0xbc9a
@SPK:［美和子］
@JPN:　え？
@ENG:

@IDX:62268
@OFF:0xbcd4
@SPK:
@JPN:　僕と真田さんの瞳が交わる。
@ENG:

@IDX:62269
@OFF:0xbcfe
@SPK:
@JPN:　その両者に浮かぶのは驚愕の色。
@ENG:

@IDX:62270
@OFF:0xbd2c
@SPK:
@JPN:　そしてすぐに狼狽の色に変わる。
@ENG:

@IDX:62273
@OFF:0xbd96
@SPK:[\protag]
@JPN:　ふ、副院長が僕の部屋に電話なんて、め、珍しくないですか？
@ENG:

@IDX:62275
@OFF:0xbe13
@SPK:［千草］
@JPN:　そんなことはどうでもいいわ。時間はいいの悪いの？
@ENG:

@IDX:62278
@OFF:0xbe7b
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、あの……ちょっとまずいんですけど……。
@ENG:

@IDX:62280
@OFF:0xbeea
@SPK:［千草］
@JPN:　まずい？　じゃあ、少しだけ待ってあげるわ。その間に、片づけちゃってちょうだい。
@ENG:

@IDX:62283
@OFF:0xbf70
@SPK:[\protag]
@JPN:　そ、そんなこと言われても……。
@ENG:

@IDX:62284
@OFF:0xbfc0
@SPK:
@JPN:　一体副院長が僕に何の用なんだろう。
@ENG:

@IDX:62285
@OFF:0xbff2
@SPK:
@JPN:　仕事なら、真魚からだろうし……。
@ENG:

@IDX:62286
@OFF:0xc022
@SPK:
@JPN:　まさか、クビとか言われるんじゃないだろうな？
@ENG:

@IDX:62287
@OFF:0xc05e
@SPK:
@JPN:　でもそれなら、さっさと言えばいい。
@ENG:

@IDX:62288
@OFF:0xc090
@SPK:
@JPN:　『あなたはクビだ』って。
@ENG:

@IDX:62289
@OFF:0xc0b8
@SPK:
@JPN:　僕が用事を片づけるまで待つなんて、よっぽど時間　がかかる話なんじゃないか？
@ENG:

@IDX:62290
@OFF:0xc122
@SPK:
@JPN:　と、いつの間にか真田さんの姿が僕の視界から消え　ていた。
@ENG:

@IDX:62291
@OFF:0xc16a
@SPK:
@JPN:　キョロキョロと視線を泳がせると、玄関先で靴を履　いている真田さんの姿があった。
@ENG:

@IDX:62292
@OFF:0xc1c8
@SPK:
@JPN:　バイバイと僕に手を振って、唇だけで何かを言う。　
@ENG:

@IDX:62293
@OFF:0xc22d
@SPK:
@JPN:　『今日はもう帰るね。
@ENG:

@IDX:62294
@OFF:0xc251
@SPK:
@JPN:　　また明日、お昼に雑木林で待ってるから』
@ENG:

@IDX:62295
@OFF:0xc299
@SPK:
@JPN:　とりあえず、僕も手を振り返す。
@ENG:

@IDX:62296
@OFF:0xc2c7
@SPK:
@JPN:　真田さんはニッコリと微笑んで僕の部屋から去って　いった。
@ENG:

@IDX:62297
@OFF:0xc30f
@SPK:
@JPN:　ふんわりと残る真田さんの芳香。
@ENG:

@IDX:62298
@OFF:0xc34d
@SPK:
@JPN:　思わずため息をついてしまう。
@ENG:

@IDX:62299
@OFF:0xc379
@SPK:
@JPN:　電話さえなければ、もしかしたら……。
@ENG:

@IDX:62300
@OFF:0xc3ad
@SPK:
@JPN:　……電話？
@ENG:

@IDX:62301
@OFF:0xc3c7
@SPK:
@JPN:　そ、そうだった。電話中だったんだ。
@ENG:

@IDX:62304
@OFF:0xc435
@SPK:[\protag]
@JPN:　もしもし？
@ENG:

@IDX:62306
@OFF:0xc48f
@SPK:［受話器のむこう側］
@JPN:　……………………。
@ENG:

@IDX:62309
@OFF:0xc4d9
@SPK:[\protag]
@JPN:　あ、あれ？
@ENG:

@IDX:62310
@OFF:0xc519
@SPK:
@JPN:　切れてる。
@ENG:

@IDX:62311
@OFF:0xc533
@SPK:
@JPN:　どういうことだろう。
@ENG:

@IDX:62312
@OFF:0xc557
@SPK:
@JPN:　副院長、僕に用があったんじゃないのか？
@ENG:

@IDX:62313
@OFF:0xc5af
@SPK:
@JPN:　はあ……。
@ENG:

@IDX:62314
@OFF:0xc5c9
@SPK:
@JPN:　一体なんだったんだ？
@ENG:

@IDX:62315
@OFF:0xc5ed
@SPK:
@JPN:　まさか……僕と真田さんの邪魔をするため……って　そんなわけはないだろう。
@ENG:

@IDX:62316
@OFF:0xc645
@SPK:
@JPN:　僕の部屋の様子が分かるはずはないし、分かったと　してもそんなことする必要がない。
@ENG:

@IDX:62317
@OFF:0xc6b3
@SPK:
@JPN:　ふう。
@ENG:

@IDX:62318
@OFF:0xc6c9
@SPK:
@JPN:　今日はもう寝よう。
@ENG:

@IDX:62319
@OFF:0xc6eb
@SPK:
@JPN:　頭がこんがらがって、何がなんだか分からなくなっ　てきた。
@ENG:

@IDX:62320
@OFF:0xc733
@SPK:
@JPN:　こんな状態じゃ、何も手につかない。
@ENG:

@IDX:62321
@OFF:0xc765
@SPK:
@JPN:　混乱した時は寝るに限る……。
@ENG:

@IDX:62322
@OFF:0xc853
@SPK:
@JPN:　布団を敷いて、目を瞑っても思い出すのは真田さん　のことばかり。
@ENG:

@IDX:62323
@OFF:0xc8a1
@SPK:
@JPN:　柔らかい真田さんの身体。
@ENG:

@IDX:62324
@OFF:0xc8c9
@SPK:
@JPN:　甘くて爽やかな匂い。
@ENG:

@IDX:62325
@OFF:0xc8fd
@SPK:
@JPN:　はっきり言うことはできなかったけど、たぶん僕の　気持ちは伝わってるはずだ。
@ENG:

@IDX:62326
@OFF:0xc957
@SPK:
@JPN:　真田さん……。
@ENG:

@IDX:62327
@OFF:0xc975
@SPK:
@JPN:　次のチャンスには必ず……。
@ENG:

